「ガトー・オ・ショコラ」「クレーム・ブリュレ」「ミルフィーユ」… なぜフランス語のお菓子の名前は、聞くだけで心がときめき、魅力的に感じられるのでしょうか?
それはきっと、フランス語が持つ独特の美しい響きと、パティシエたちが丹精込めて作り上げるスイーツが目と舌にもたらす幸福感が、見事に調和しているからかもしれませんね。
お菓子の名前には、その材料、見た目、生まれた土地、そして時には素敵な物語が隠されています。その意味を知れば、パティスリーのショーケースを眺める時間はもっと楽しくなり、一口食べるたびに、その背景にある文化や歴史を感じられるはずです。
今回は、そんな魅力あふれる「フランス語のお菓子の名前」の見かた、読み解き方を、基本パターンからお祭りの屋台スイーツまで、たっぷりとご紹介します!
フランス語のお菓子の名前、読めますか?ガトーショコラから屋台スイーツまで意味と由来を徹底解説!
目次
なぜフランス語のお菓子の名前は魅力的なのか?
響きの美しさとスイーツの魔法
フランス語は、その鼻母音やリエゾン(連音)が織りなす流れるような響きから、「世界で最も美しい言語の一つ」とも言われます。そのメロディアスな響きが、繊細で芸術的なフランス菓子のイメージと重なり、私たちの五感を刺激するのかもしれません。「マカロン」「エクレール」「サヴァラン」… 口に出して言ってみるだけで、なんだか優雅な気分になりませんか?
名前を知れば、もっと美味しく、もっと楽しくなる!
お菓子の名前は、単なる記号ではありません。その名前の由来や意味を知ることで、お菓子への理解が深まり、選ぶ楽しみ、食べる楽しみが倍増します。「これは洋ナシのタルトなんだな」「これは焦がしクリームのことか」「ボルドー地方のお菓子なんだ」と分かりながら味わうことで、パティシエの意図やフランスの食文化に、より深く触れることができるのです。
フランス菓子名の基本パターン①:「○○・オ・~」(材料・風味)
フランス菓子で非常によく見かけるのが、この「○○・オ・~」というパターンです。「ガトー・オ・ショコラ」や「タルト・オ・ポワール」などがその代表例ですね。
「à」が繋ぐ、美味しさの秘密 (`au`, `à la`, `aux`)
この「オ」や「ア・ラ」は、もともとフランス語の前置詞「à」と定冠詞(英語の the にあたるもの)がくっついた形(縮約冠詞)です。「à」には様々な意味がありますが、お菓子の名前では「~(の材料)を使った」「~風味の」といった意味合いで使われます。つまり、「主体となるお菓子 + à + 材料・風味」という構成で、お菓子の内容を説明しているのです。
文法解説:性数一致と縮約冠詞
なぜ「au」「à la」「aux」と形が変わるのでしょうか? これは、フランス語の「性数一致」と「縮約冠詞」のルールに基づいています。
- au (オ) = à + le (à の後ろに来る名詞が男性単数の場合)
- à la (ア ラ) = à + la (à の後ろに来る名詞が女性単数の場合)
- aux (オ) = à + les (à の後ろに来る名詞が複数(男女問わず)の場合)
例えば、「chocolat」は男性名詞なので「à + le chocolat」となり、縮約されて「au chocolat」になります。「poires」(洋ナシ・複数形)は複数名詞なので「à + les poires」となり「aux poires」になります。「pistache」(ピスタチオ)は女性名詞なので、縮約は起こらず「à la pistache」となります。
例文でマスター:「Gâteau au chocolat」から「Tarte aux pommes」まで
Gâteau au chocolat (ガトー・オ・ショコラ) – チョコレート(男性単数)のケーキ
Tarte aux poires (タルト・オ・ポワール) – 洋ナシ(女性複数)のタルト
Baba au rhum (ババ・オ・ラム) – ラム酒(男性単数)に浸したケーキ
Mousse à la pistache (ムース・ア・ラ・ピスタシュ) – ピスタチオ(女性単数)のムース
Croissant aux amandes (クロワッサン・オ・ザマンド) – アーモンド(女性複数)のクロワッサン
Pain au raisin (パン・オ・レザン) – レーズン(男性複数 ※通常複数形で使う)のパン
Tarte à l’orange (タルト・ア・ロランジュ) – オレンジ(女性単数 ※母音で始まるため l’ になる)のタルト

Gâteau au chocolat – 「オ」の意味が分かると、名前の構造が見えてきますね
フランス菓子名の基本パターン②:「名詞 + 形容詞」(特徴・品質)
次に多いのが、「名詞」の後に「形容詞」が続くパターンです。これは、お菓子の見た目、状態、味などの特徴を表します。
英語と逆!フランス語の形容詞の位置
英語では通常「形容詞 + 名詞」(例: black cat)の語順ですが、フランス語では多くの場合「名詞 + 形容詞」(例: chat noir)となります。(一部、名詞の前に来る形容詞もありますが、お菓子の名前では後ろに来ることが多いです)。そして、ここでも形容詞は名詞の性・数に合わせて変化します。
例文でマスター:「Crème brûlée」から「Pain perdu」まで
Crème brûlée (クレーム・ブリュレ) – 焦がした(brûlée)クリーム(Crème)
Pain perdu (パン・ペルデュ) – 失われた/無駄にした(perdu)パン(Pain)
Marron glacé (マロン・グラッセ) – 糖衣がけした(glacé)栗(Marron)
Cake salé (ケーク・サレ) – 塩味の(salé)ケーキ(Cake)
Fromage blanc (フロマージュ・ブラン) – 白い(blanc)チーズ(Fromage)
Petit four (プティ・フール) – 小さな(Petit ※前に来る例外)窯(Four) → 一口サイズの焼き菓子
Mousse glacée (ムース・グラッセ) – 凍らせた(glacée)ムース(Mousse)
フランス菓子名の基本パターン③:「地名」を冠したお菓子
フランスは地方ごとに特色ある食文化を持っており、お菓子も例外ではありません。発祥の地名がそのまま名前になっているものや、「~風の」という形容詞が付いているものがたくさんあります。
旅する気分!フランス地方菓子の世界
これらの名前を知ると、まるでフランス各地を旅しているような気分になれますね。
Canelé bordelaise (カヌレ・ボードレーズ) – ボルドー(bordelaise)風のカヌレ
Gâteau basque (ガトー・バスク) – バスク(basque)地方のケーキ
Crêpe normande (クレープ・ノルマンド) – ノルマンディー(normande)風クレープ(リンゴ入り)
Far breton (ファール・ブルトン) – ブルターニュ(breton)風のファール
Kouign-amann (クイニー・アマン) – ブルターニュ語で「バター(amann)の菓子(Kouign)」
Madeleine de Commercy (マドレーヌ・ド・コメルシー) – コメルシー(Commercy)のマドレーヌ
Tarte tropézienne (タルト・トロペジェンヌ) – サントロペ(tropézienne)風タルト
Paris-Brest (パリ・ブレスト) – パリ(Paris)とブレスト(Brest)間の自転車レースを記念したお菓子

Canelé bordelaise – ボルドーの風を感じる伝統菓子
番外編:フランスのお祭り(移動遊園地)で見かけるお菓子
高級なパティスリーだけでなく、フランスにはもっと庶民的で楽しいお菓子の世界もあります。その代表が、移動遊園地「Fête foraine (フェット・フォレーヌ)」の屋台スイーツです。
移動遊園地「Fête foraine」の魅力
フランスには日本の神社のお祭りのような定着したお祭りは少ないですが、春から秋にかけて、様々な街に移動遊園地がやってきます。観覧車やメリーゴーランドと共に、カラフルで甘い香りを放つお菓子の屋台がずらりと並び、子供から大人まで多くの人々で賑わいます。
会話で楽しむお祭り気分
Hanako: Il y aura une fête foraine bientôt. Est-ce que tu y vas avec tes enfants ?
(花子:もうすぐ移動遊園地がくるでしょ。あなた、子供たちと一緒に行くかしら?)
Marie: Oui, certainement. Pourquoi ? Tu veux venir avec nous ?
(マリー:ええ、きっと行くわよ。どうして? 私たちと一緒に行きたいの?)
Hanako: Oui ! J’aimerais bien goûter les confiseries, comme la barbe à papa ou la pomme d’amour. Mais c’est trop grand pour moi toute seule !
(花子:うん! 綿あめとか、りんご飴とか、お菓子を試してみたいの。でも一人じゃ大きすぎるのよ!)
Marie: Haha, d’accord ! On partagera alors. Les enfants seront ravis !
(マリー:はは、わかったわ! じゃあ分けっこしましょう。子供たちも喜ぶわ!)
お祭りスイーツ大集合!
移動遊園地で見かける代表的なお菓子を見てみましょう。
- Confiserie (コンフィズリー): 砂糖菓子全般。カラフルなグミや飴など。
- Pomme d’amour (ポム・ダムール): 愛(amour)のりんご(pomme) → りんご飴。
- Barbe à papa (バルブ・ア・パパ): パパ(papa)のひげ(barbe) → 綿あめ。
- Churros (チュロス) / Chichis (シシ): チュロス。フランスでは砂糖をまぶしただけのシンプルなものが多いです。
- Gaufre (ゴーフル): ワッフル。ブリュッセル風の四角いものが主流。
- Crêpe (クレープ): 定番のクレープ。砂糖やヌテラ(チョコヘーゼルナッツスプレッド)が人気。
- Croustillons (クルスティヨン): 揚げドーナツ。外はカリッと、中はもちっとしています。
- Canne de sucre d’orge (カンヌ・ド・シュクル・ドルジュ): 大麦糖の杖 → ステッキ型の飴。
- Guimauve (ギモーヴ): マシュマロ。

Barbe à papa (綿あめ) はお祭りの花形!
パティスリーで役立つ!簡単フランス語注文フレーズ
せっかく名前を覚えたら、実際にフランスのパティスリーで注文してみましょう!
- Bonjour ! (ボンジュール!) – こんにちは!
- Je voudrais… (ジュ・ヴドレ…) – ~が欲しいのですが。(丁寧な表現)
- Je vais prendre… (ジュ・ヴェ・プランドル…) – ~にします。(決めた時)
- Un gâteau au chocolat, s’il vous plaît. (アン・ガトー・オ・ショコラ, スィル・ヴ・プレ) – チョコレートケーキを一つ、お願いします。
- Deux croissants, s’il vous plaît. (ドゥ・クロワッサン, スィル・ヴ・プレ) – クロワッサンを二つ、お願いします。
- C’est pour manger ici ? (セ・プー・モンジェ・イスィ?) – ここで食べますか? (店員)
- Pour emporter. (プー・ランポルテ) – 持ち帰りで。
- Merci ! Au revoir ! (メルスィ! オ・ルヴォワール!) – ありがとう! さようなら!
まとめ:フランス語のお菓子名で、スイーツの世界をもっと深く味わおう!
フランス語のお菓子の名前の世界、楽しんでいただけましたか?
「○○・オ・~」や「名詞 + 形容詞」といった基本的なパターンを知るだけで、多くのお菓子の名前が何を意味しているのか推測できるようになります。さらに、地名や人名、その由来を知ることで、一つ一つのお菓子に込められた物語や文化に触れることができます。
パティスリーのショーケースに並ぶ宝石のようなお菓子たちも、移動遊園地のカラフルで陽気なお菓子たちも、その名前にはフランスのエスプリ(精神)とサヴォワールフェール(職人技、知恵)が詰まっています。
次にフランス菓子を食べる機会があったら、ぜひその名前にも注目してみてください。きっと、今まで以上にその味を深く、豊かに感じられるはずです。さあ、あなたもフランス語のお菓子名ナビゲーターになって、甘い発見の旅に出かけましょう!