美食の国フランスは、料理に関する格言・名言の宝庫。今回はフランス文化のエッセンス「料理」の奥深い世界をテーマにフランス語を学んでみましょう。
美食の国フランス:料理に関する名言でフランス語をマスター
目次
フランスの美食文化とは
「美食」はフランス語で「gastronomie」。ユネスコの無形文化遺産に登録されています。そんなユネスコによるとフランスの「gastronomie」は…
Le repas gastronomique des Français est une pratique sociale coutumière destinée à célébrer les moments les plus importants de la vie des individus et des groupes, tels que naissances, mariages, anniversaires, succès et retrouvailles.
https://ich.unesco.org/en/RL/gastronomic-meal-of-the-french-00437
豪華なフランスの食事は、誕生や結婚・記念日・成功・再会など、個人やグループの人生で最も重要な機会を祝う目的の、社会的な風習である。
- repas (m) 食事
- gastronomique 美食に関する、ごちそうの並んだ
- pratique (f) 実践、慣行
- sociale 社会の
- coutumière 慣習的な
- destiné à ~ ~の用途にあてられた
- célébrer 祝う
- moment (m) 短い時間、機会
- important 重要な
- vie (f) いのち、一生、人生
- individu (m) 個人
- groupe (m) 集団、グループ
- naissance (f) 誕生、出産
- mariage (m) 結婚
- anniversaire (m) 記念日、誕生日
- succès (m) 成功
- retrouvailles (f) 再会
フランスの「gastronomie」は「apéritif 食前酒」から始まり「digestif 食後酒」で終わりますが、その間に「entrée 前菜」「plât principal メイン料理」「fromage チーズ」「desser デザート」がサービスされます。
この順番はとても重視されていて、一般家庭の日常的な「repas」でも「entrée」と「plât principal」が同時に出されることはありません。私たち日本人の感覚だと、ワンプレートに盛り付ければいいじゃないと思うような内容でも、別々にサービスするのがフランス式です。
そしてフランスの「gastronomie」に欠かせないのは、美味しい食事だけではありません。料理とワインの相性、テーブルコーディネートも重要です。食事を頂く際に香りをかぎ、味わうという私たちの姿勢も必要とされています。
もちろん楽しく食卓を囲むことも重要です。フランス人にとって「gastronomie」とは、家族や友人、また社会的な繋がりを強める役割を持っています。
「gastronomie」に欠かせないワインについては、こちらの記事もご覧ください。
フランスの美食家ブリヤ=サヴァラン
フランスの有名な「gastronome 美食家」に「Jean Anthelme Brillat-Savarin ジャン・アンテルム・ブリヤ=サヴァラン」という人がいます。
彼は学問としての「gastronomie」について書かれた「Physiologie du Goût 美味礼讃」の著者であり、18-19世紀のフランスの法律家。本の中の名言・格言は現代でも非常に有名です。
「Savarin」という有名なフランス菓子がありますが、これは美食家である「Brillat-Savarin」にオマージュがささげられています。
「Brillat Savarin」という名の「fromage チーズ」もあり、こちらは贅沢な生クリーム入りの濃厚でクリーミーな白カビタイプです。こちらも美食家の名前から名づけられています。
また「 Brillat-Savarin」は美食家であるだけでなく「Physiologie du Goût 」のなかで「obésité 肥満」に対する対策についても述べています。
睡眠や運動についてだけでなく、炭水化物を避けてたんぱく質の摂取を推奨するいわゆるローカーボダイエットについても述べており、「gastronomie」を続けるためには健康が大切であると考えていたことがうかがわれます。
ブリヤ=サヴァランの食の名言
そんな「Jean Anthelme Brillat-Savarin」の食に関する名言から、フランス流の“美食の哲学”を見てみましょう。
食は全ての礎なり
*La destinée des nations dépend de la manière dont elles se nourrissent.
国家の運命はその人民の食生活次第である。
食事が国家の運命を左右する…とても大げさな言葉ではありますが、それだけ食は大切なものだと「Brillat-Savarin」は考えていたことが伝わってきます。
- destinée (f) 運命、天命
- nation (f) 国家、国民
- dépendre de~ ~次第である
- la manière dont~ ~する方法、流儀
- se nourrir ものを食べる、食事をとる
「manière」は「方法、流儀」。「de la manière de …. ~流の方法で」と、後に「de」が続く形でよく使われる語です。ここでは「deを伴う語句の内容」を表す関係代名詞「dont」が使われていますね。
この「la manière dont … ~が~するやり方」という形もそのまま覚えておきましょう。
*Dis-moi ce que tu manges, je te dirai ce que tu es.
あなたが食べているものを言ってごらん、あなたがどんな人物か当ててあげよう。
「Brillat-Savarin」の名言の中でも、引用される機会が多いのがこちら。食べ物の好みから性格や考え方までわかるというのは、それだけ食とその人に密接な関係があると考えたのかもしれません。
- dire 言う
- manger 食べる
こちらの名言では「ce que~ ~であるところのもの」という言い回しが二回出てきます。一つ目の「ce que tu manges」 は「あなたが食べるもの」という意味です。
二つ目の「ce que tu es」は、「それがどんな人・物であるか」という意味。このように「ce que」の後に「主語+être」が続く言い回しは「~がそうであるところのもの」という意味で使われます。
料理の哲学
*On devient cuisinier mais on naît rôtisseur.
人は料理人になることはできるが、ロティスールには生まれつくことしかできない。
- devenir ~になる
- cuisinier 料理人
- naître 生まれる 、~に生まれつく
- rôtisseur 肉を焼く専門の料理人
こちらは直訳すると「人は料理人になるが、人はロティスールとして生まれる」。料理は学んで覚えることができるけれど、肉を完璧な焼き加減で焼くには生まれついた才能が必要であるということをいっています。
*Un dessert sans fromage est une belle à qui il manque un œil.
チーズを欠いたデザートは、片目のない美女のようなもの。
フランス人にとって「fromage」は食事に欠かせないものです。「dessert」があってもその前に「fromage」を食べないと満足できない…そんなフランス人の心情を見事に言い表していますね。
- dessert (m) デザート
- belle (f) 美女
- il manque A à B BにAが欠けている
- œil 目、目玉
「à qui~」は「前置詞+関係代名詞」の形で、「il manque un œil à cette belle その美女には片目がない」の「à ~」以下の部分を表しています。
美食の喜び
*La découverte d’un mets nouveau fait plus pour le bonheur du genre humain que la découverte d’une étoile.
新しい料理の発見は人類の幸せとって恒星の発見以上のものをもたらす。
こちらは「食べることの喜び」についての名言。グルメな人にはこの名言はとても納得いくものでしょう。
- découverte (f) 発見
- met (m) 料理
- bonheur (m.) 幸せ
- genre humain (m.) 人類
- étoile (f) 星
「faire plus (pour~) que~ 」は、「(~にとって)~以上に大きなものをもたらす」という意味。
*Le Créateur, en obligeant l’homme à manger pour vivre, l’y invite aussi par l’appétit, et le récompense par le plaisir.
人は神の意志により生きるために食べることを余儀なくさせたが、同時に食欲からそこへ誘われ、喜びで報われる
こちらは「人は生きるために食べなければならないという辛い運命を背負っているが、だからこそおいしい料理を味わう喜びを享受することもできる、これぞ神のご加護である」という名言です。
- Créateur (m) 創造主、神
- obliger A à B ~に~(すること)を強いる
- inviter A à B ~を~に誘う
- appétit (m) 食欲
- récompenser ~に報いる
「en obligeant」は「en+現在分詞」で表されるジェロンディフという構文です。ジェロンディフには下記の用法があり、この名言では1つ目の同時性に当てはまります。
- 同時性(〜しながら、〜する)
- 状態(~しながら)
- 条件(〜すれば、〜できる)
- 原因(〜したので、〜した)
- 方法(〜して、〜する)
- 対立・譲歩(たとえ〜しても、〜だ)
この文の主語は長いですが「Le Créateur, en obligeant l’homme à manger pour vivre 人に生きるために食べることを強いる神」です。
長い主語の後に続く「l’y」の「l」は「homme 人」のことで、「y」は「manger pour vivre 生きるために食べる」のことです。
その後に主語に対する1つめの動詞「invite」が続きます。そして2つめの動詞「récompense」の前にも「le」がありますが、これも「homme」を意味しています。
招待マナー
*Convier quelqu’un, c’est se charger de son bonheur pendant tout le temps qu’il est sous notre toit.
誰かを招待するということは、その人が私たちの家にいる全ての間、幸せにする役割があるということだ。
フランスには友人を自分の家に招待し、夕食を共にするというのも文化の一つ。レストランに行くこともありますが、日本よりも家に気軽に招きますし、家で食事を共に楽しむのは普通のことです。
これはそんな時に、招待した側の心得を説いた格言です。招待するからには相手に喜んでもらえるように、心を尽くしましょう、ということですね。
- convier 招く
- se charger de ~ ~を引き受ける
- bonheur (m) 幸福、幸せ
- pendant ~の間
- tout le temps たえず、いつも
- sous ~の下に
- toit (m) 屋根
「sous notre toit」は直訳だと「私たちの屋根の下」ですが、この格言の場合は「私たちの家」のこと。比喩的表現では「私たちの庇護下」という意味で使われることもあります。
*引用全て:gutenberg
食に関するいろいろなフランス語の格言
「gastronomie」の国であるフランスには「Jean Anthelme Brillat-Savarin」の名言以外にも、いろいろな食に関する格言があります。
La gourmandise tue plus de gens que l’épée.
美食は剣よりも多くの人々を殺す。
「gastronomie」は人生の喜びではありますが、美味しいものばかり食べていると、体を壊してしまうこともありますよね。特にお酒を飲みすぎると「mort soudaine 急死」してしまうことも…
そんな「gastronomie」には、剣、つまり戦争などによる死よりも、多くの人を殺してしまう可能性があるという格言です。
- gourmandise (f) 食いしん坊、食道楽
- tuer 殺す
- gens (m) 人々
- épée (f) 剣
La nourriture la meilleure est celle qui contient le plus de calories.
一番美味しい食べ物は、一番カロリーが高い。
こちらは「De Loi de Murphy マーフィーの法則」から。確かに揚げ物に甘いものなど、カロリーが高いものは美味しいですよね。これも生きていくためにはカロリーが必要だから…とはいっても、ダイエット中の誘惑はとても辛いものです。
- nourriture (f) 食物、食事
- le/la meilleur(e) 最も良い
- contenir 含む
- calorie (f) カロリー
La gastronomie est l’art d’utiliser la nourriture pour créer le bonheur.
美食は幸福を創り出すために食材を使う芸術だ。
社会学者「De Theodore Zeldin」の格言です。フランス語には「l’art culinaire 食の芸術」という表現がありますが、フランスの「gastronomie」は味はもちろん、美しさでも目を楽しませてくれ、まさに芸術といえますね。
- art (m) 芸術
- utiliser 使用する、利用する
- créer (神が)創造する、作る、生み出す
La gastronomie est devenue mondiale et il est important que la cuisine française soit portée par des chefs.
美食は世界的なものになっている。そしてフランス料理はシェフによって支えられることが重要だ。
こちらはフランス人の有名シェフ「De Yannick Alléno」の格言です。彼はフランス国内のレストラン2軒で3つ星を保持(2023年10月現在)しており、いつか行ってみたいと思っている方もいるのではないでしょうか。この格言は、そんなプロの職人である料理人のプライドが垣間見えますね。
- devenir ~になる
- mondiale 世界の、グローバルな
- important 重要な
- cuisine (f) 台所、料理
- français フランスの
- porter 持つ、支える
- chef (m) リーダー、料理長
「Il est important que ~」は非人称構文で「~することが大切である」という意味。「que」の後には接続法が続きます。
「chef」は日本だと「料理長・シェフ」のことのみを指しますが、正しくはもっと大きな意味があり「リーダー、長」全般を指します。この格言では「料理長」のことですが、必ずしも「chef」=料理長ではないので勘違いしないようにしましょう。
そして本来「chef」は男性名詞ですが、女性に対しては「la / une chéf」の形で使われることも増えていますし、「chef」を女性形にした「cheffe」という単語も使われるようになってきています。
L’appétit vient en mangeant.
食欲は食べているうちに出てくる。
この格言は「食欲がなくても食べているうちに食欲は出てくる」「食べるとより食欲を掻き立てられる」という意味。食欲がなくても美味しいものならどんどん食べられることもありますし、美味しいものは際限なく食べたい、ということもありますね。
- appétit (m) 食欲
- en mangeant 食べているうちに、食べながら
L’appétit est le meilleur cuisinier.
食欲は一番の料理人だ。
「お腹が空いている時にはどんな料理もおいしく食べられる」という意味の格言です。日本では「空腹は最高のスパイス」ともいいますね。
La vie est le chocolat, c’est l’amer qui fait apprécier le sucre.
人生はチョコレート、苦味があるから砂糖を美味しく感じる。
こちらは「Xavier Brébion」の格言。人生はチョコレートのように苦い瞬間があるけれど、それがあるから砂糖、つまり喜びや幸せを強く感じることができる、という意味です。
- chocolat (m) チョコレート
- amer (m) 苦いもの、苦味
- apprécier ~を高く評価する、感じ取る
- sucre (m) 砂糖
「amer」は形容詞として使われることが多いですが、この格言のように名詞として使われることもあります。しかし一般的に名詞では「amertume 苦味、苦さ」の方が使われます。
「faire +不定詞 」は使役表現で「~させる」という意味。「faire apprécier」は主語の「amer」によって、砂糖の味を「より美味しいと思わせる、より強く感じさせる」という意味になります。
まとめ
フランスの「gastronomie」に関する文化や名言・格言を紹介しました。日本人もなるほどと納得するものから、フランスらしいなと感じるものまで、色々なものがありますね。
「Brillat-Savarin」の「gastronomie」に関する名言は他にもたくさんあるので、気になる方は「Physiologie du Goût」をフランス語でチャレンジしてみるのもおすすめです!
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